火力は本当に強い?IHクッキングヒーターの普及率やメリット・デメリットは?
近年の新築住宅では、IHクッキングヒータ―を導入する方が増えてきています。
また、着衣に火が燃え移る心配がないといった安全性の理由から、ガスコンロからIHクッキングヒーターへの取り替えを検討される方もいらっしゃいます。
今回のコラムでは、IHクッキングヒーター普及の歴史からメリットやデメリットについて、徹底解説していきたいと思います。
1.IHクッキングヒーターの歴史と普及率
IHクッキングヒーターが国内で初めて発売されたのが1974年。当時、電磁調理器と呼ばれていた卓上タイプのIH調理器が販売されました。
1994年には機器の小型化によりビルトインガスコンロと同じ標準サイズの製品が開発され、性能が向上し本格的に普及が進んだ2000年代からは、新築やリフォームの際、キッチンのコンロはガスかIHか検討する選択肢の1つになりました。
2016年1月にはIHクッキングヒーターの国内累計出荷台数が1,101万台を突破。その年の3月に一般社団法人日本電機工業会(JEMA)が、IHクッキングヒーターの更なる普及により日本の食文化が豊かになることを願い、「IH」の文字にちなんで、毎年11月1日を「IHクッキングヒーターの日」と定めました。
その後も毎年70万台以上の出荷が続いており、買い替えを含めたIHクッキングヒーターの安定した需要があるといえます。
(2020年のガスコンロの出荷台数が334万台に対して、クッキングヒーターの出荷台数が約74万台と、コンロ出荷数の約2割を占めている。※)
※出典:「生産動態統計年報(2020年確定版)」経済産業省(2021年5月28日)
環境省の調査によると、IHクッキングヒーターの普及率は25.4%※(IH以外の電気コンロ含む)であり、約4軒に1軒は使用していることがわかっています。
戸建て住宅に限定すると普及率33.8%※と約3軒に1軒は使用しており、戸建て住宅を中心に普及が進んでいることがわかります。(集合住宅に限定すると普及率14.9%※)
2.IHクッキングヒーターのメリット
IHクッキングヒーターには、どのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく解説いたします。
2-1.熱効率が高くキッチンが暑くなりにくい
そもそも「IHって何?」ということですが、IHとは、「Induction Heating」の頭文字から取ったもので、「電磁誘導加熱」という意味です。
IHクッキングヒーターのほかにIH炊飯器も同じ加熱方式を採用しています。
ガスコンロのように直火で加熱するのではなく、機器内部にあるコイルに電気を流すことで磁力線を発生させます。
この磁力線がトッププレートの上に置いた鍋やフライパンの底でうず電流を発生させることで、鍋やフライパンの金属中の抵抗が発熱し鍋底部分が熱くなる仕組みになっています。
そのため、熱効率が約90%と高く、ほとんどの加熱のエネルギーを調理に活かすことができます。
一方、ガスコンロの熱効率は、最新式のもので56.3%※(2022年1月時点)であり、残りの43.7%はロスとなり、キッチン空間を暑くしてしまっていることになります。
つまり、IHクッキングヒーターを使った方が調理中にキッチンが暑くなりにくいと言えます。
2-2.掃除が簡単でキレイを保ちやすい
吹きこぼれてもトッププレートが平らで、サッと拭くだけでお手入れができますので、簡単に清潔に保つことができます。
またトッププレート面の汚れはクリームクレンザーや専用クリーナーを塗布してラップもしくはアルミホイルを丸めてこすることで簡単にお掃除できます。
2-3.極とろ火からハイパワーの大火力まで火力の幅が広い
鍋などを直接発熱させるため、高い熱効率で無駄なく高火力が得られます。
また、風が吹いても立ち消えの心配がありませんので、極とろ火もお手のものです。
立ち上がりも早く、火力のコントロールがしやすいため、極とろ火(保温機能)ではお湯を使わずにチョコレートの湯煎ができますし、ハイパワー(2.5kW以上)ではゆで物をする時お湯を沸騰させるまでにかかる時間が短縮できます。
例えば、3.2kWの火力であれば1リットルの水を沸騰させるのに約2分という早業です。
【参考】水温20℃→100℃、熱効率90%、水の比熱4,182[J /kg・K]として計算した参考値。実際には鍋の種類や大きさ、周囲温度や放熱により、時間の変動があります。
湯沸しのスピードを求めるなら3.2kWといった火力の強い機種を選んでいただくなど、ご自身の使い方にあった製品をお選びください。
ただし、フッ素加工などのこびりつかないコーティングをしている鍋やフライパンは、強火での使用を禁止しているものもありますので、火力設定にはご注意ください。
2-4.直火がなく着衣への燃え移りの心配がない
IHクッキングヒーターは、加熱に炎を使いませんので、直火による着衣への燃え移りの心配がありません。今の季節、厚着をしていたとしても安心して調理できます。
また、IHクッキングヒーターのすぐ横にレシピ本を置いて調理しても火が燃え移る心配がありませんので、キッチンの限られたスペースを有効活用できます。
2-5. 空気を汚さないから快適に調理できる
ガスコンロで調理すると、ガスの燃焼時に二酸化炭素が発生しますので、必ず換気をする必要があります。また、同時に水分も発生していますので、結露のおそれがあります。
IHクッキングヒーターは窓を開けて調理しても、風で炎が消える心配もありませんので、快適に調理できます。加熱時に空気を汚さないため、冬場は最小限の換気で済みますし、高気密・高断熱住宅にも適しているといえます。
2-6.安全機能や便利機能が充実している
主な安全機能
切り忘れ自動オフ:操作をしてから一定時間経過後に自動的に通電を停止
鍋なし自動オフ:鍋がない状態が一定時間経過後に自動的に通電を停止。
小物自動オフ:スプーンやフォークといった小物が置かれても加熱しない。
空焼き自動オフ:鍋の温度があがり過ぎた時に自動的に通電を停止。
高温注意表示:トッププレートが熱くなっている場合に高温注意表示を点灯。
チャイルドロック:お子さまなどがスイッチに触っても操作できないようロック。
主な便利機能
オフタイマー:時間を設定すれば、一定時間経過後に自動オフ。
揚げ物機能:設定温度まで油を加熱後お知らせし、具材が投入されても温度を維持できるよう自動的に火力を調整。
ゆで物機能:ゆで物の際に吹きこぼれないよう自動的に火力を調整。※
グリル自動調理機能:魚の種類(丸焼き・切り身等)や焼き加減を設定すれば自動的に両面を焼いてくれる機能。魚以外の自動調理メニューもあり。※
レンジフード自動連動機能:IHの使用に連動して対応するレンジフードの換気扇がまわり、調理が終われば、一定時間経過後に換気扇もストップ。※
自動湯沸かし:沸騰したら音でお知らせし、保温。※
自動炊飯:火加減を自動調整しお米を炊く機能。※
調理サポート機能:具材を入れたり裏返したりするタイミングをお知らせ。※
※印がついた機能は、メーカーや機種により搭載されている機能。
3.IHクッキングヒーターのデメリット
次にデメリットについて解説いたします。
3-1.比較的高価
購入費用はガスコンロに比べると比較的高価な傾向にありますが、前述のとおり便利な機能が搭載されています。
使い勝手も年々向上しておりますので、価格だけでの購入検討ではなく、便利さや使いやすさを踏まえてご検討することをおすすめします。
3-2.使える鍋が限定される
基本的には「IH対応」のフライパンや鍋を使用する必要があります。
材質は、主に鉄・ホーロー・ステンレスが適していますが、簡単にチェックする方法として、鍋底に磁石がくっつくものであれば使用できます。
アルミ鍋、銅鍋は通常のIHでは使用できませんが、オールメタル対応(アルミ・銅対応)のIHクッキングヒーターなら使用できます。
土鍋、耐熱ガラス鍋も基本的には使用できませんが、「IH対応」となるよう底面に加工を施した一部の製品もあります。また、アルミやセラミックスといった素材でも鍋底に磁石がつくステンレスが貼り合わせてある「IH対応」のものであれば、使用できます。
一方、IHクッキングヒーターは、鍋底が平らでなければ使用できないため、鍋底に反りがあるもの、脚があるもの、中華鍋のように底が丸いものは使用できません。魚焼き網も使用できません。
3-3.停電時は使えない
IHクッキングヒーターを使用するためには、電気が必要であるため、停電時には使用できなくなります。このため、カセットコンロとカセットガスは常に備えておくことをおすすめします。
また、200V対応の蓄電池システムを設置することで、IHクッキングヒーターを含め、停電時にも一定時間電気を使用することができるようになります。
国や地方自治体の補助金制度が利用できる場合がありますので、防災対策として検討してみてはいかがでしょうか。
なお、太陽光発電設備が設置されている場合、停電時でも太陽光パネルに太陽光が当たっていれば、「自立運転機能」により、自立運転用の100Vコンセントから、卓上IH調理器を使うこともできます。(火力は発電出力以下にする必要があります)
蓄電池や太陽光発電の自立運転といった停電時の備えについて、詳しくは以下のコラムをご覧ください。
あわせて読みたい:これからの季節に発生する台風への備え(後編)
3-4.アンペアブレーカーが落ちることがある
200VのIHクッキングヒーターは、コンロとグリルの合計消費電力が最大5,800W(58アンペア相当)まで使えるものがあります。
契約アンペアが小さい場合や、複数の家電製品と同時に使用した場合、契約アンペア数を超える電気を使用して一定時間が経過すると、アンペアブレーカーやスマートメーターのアンペアブレーカー機能が動作して停電してしまうことがあります。(例えば東京電力パワーグリッドエリア内のスマートメーターのアンペアブレーカー機能が動作し停電した場合は、10秒経過後、自動的に復旧します)
契約アンペアを大きくする場合には、電気の契約をしている電力会社「小売電気事業者」までご連絡ください。(東京電力パワーグリッドは「送配電事業者」のため、契約アンペアの変更を承ることができません)
契約アンペアを大きくしたくない場合、IHクッキングヒーターの設定を変更することで、最大4,000W(40アンペア)や4,800W(48アンペア)に切り替えることができる機種もあります。
その場合、最大消費電力以内になるよう自動的に火力の調整がされますが、強火力を使い続けるようなシーンは大きな鍋でお湯を沸かす時くらいですので、それほど心配する必要はありません。
3-5.直接火であぶれない
スルメや海苔など直接火であぶることはできません。
グリル部分を使用するか、ラジエントヒーター付きの製品であれば、ラジエントヒーターを使っていただく必要があります。
3-6.誤った使用方法で発火の可能性がある
規定値以下の少ない量の油や当該機種が対応していない天ぷら鍋で揚げ物機能を使用した場合や、IHクッキングヒーターカバーを使用※するなど、誤った方法で使用すると過熱により発火するおそれがあります。各種安全装置は付いていますが、取扱説明書に従って調理をしていただくといった最低限の注意は必要です。
※トッププレートの汚れを防止するIHクッキングヒーターのカバーのようなものを使用した場合、温度検知、空焚き防止機能が正常に働かないため、非常に危険です。ご使用はお止めください。(一般社団法人日本電機工業会HP「IHクッキングヒーターなんでもQ&A」より引用)
4.まとめ
今回は、IHクッキングヒーターのメリット、デメリットについて解説いたしました。購入を検討される方や、どんな機種を選べば良いか迷われた方は、お近くの販売店や東京電力パワーグリッドにご相談ください。
東京電力パワーグリッドでは、この他にもお客さまが電気でお困りのことや、みてもらいたいことなど、ご家庭の電気安全のご相談にお応えするコンサルトサービスも実施しています。
IHクッキングヒーターを使うとブレーカーが落ちるといった不具合の際には、その原因調査や漏電調査も承ります。
- 電気設備の点検をしてほしい
- 漏電していないか心配なのでみてほしい
- プラグやコードの正しい使い方を教えてほしい
- 焦げたり差し込みのゆるくなったコンセントを取り替えてほしい
- 分電盤やブレーカー、スイッチを取り替えてほしい
こんな時には、お客さまの屋内配線などを東京電力パワーグリッドが測定器を使って診断します。お気軽にご相談ください。
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